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09花粉症・アレルギー

ある特定の食品を食べると決まってアレルギーの症状が出るという場合はその原因食物を回避することができます。しかし最近の成人のアレルギーにおいては今まで食べて大丈夫だったものを接種したあとに蕁麻疹や口のいがいが感(口腔アレルギー症状OAS)、重症なものでアナフィラキシーまで起こしてしまうという方が多くなっています。食物アレルギーの発症には食事と運動が組み合わさっておきたり、交差抗原性、交差反応性などが関与するものもあり今まで考えられてきたよりも複雑であることが解明されてきております。

例えば成人の小麦アレルギーに多いのですが食事をした後に運動をするとアレルギーの症状が出るという方がいらっしゃいます。食物依存性運動誘発性アナフィラキシー(FDEIA)や小麦依存性運動誘発性アナフィラキシー(WDEIA)といった病態が知られています。こういった方は普段は小麦を食べても運動をしなければ特に症状は出ないのですが、小麦を摂取してから2時間以内に運動をすると強いアレルギー症状が出る場合があります。血液のアレルギー検査(特異的IgE抗体検査)では通常の小麦を調べてもひっかからないことが多く、ω-5グリアジン(オメガファイブグリアジンと読みます)という小麦の中のグルテンの構成成分に対する特異的IgE抗体を調べると陽性に出ます。この運動誘発性の小麦アレルギーをお持ちの方は完全に小麦を回避する必要はないのですが小麦を食べたら運動はしない、運動をするならその前には小麦を食べない、を徹底する必要があります(小麦を摂取しなければ運動負荷だけでは誘発されません)。また完全に回避するのが難しい状況もあるので以前にアナフィラキシーまで起こしたことがある方にはアドレナリンの自己注射製剤であるエピペン®の持参が望ましいかと思われます。この運動誘発性のアナフィラキシーは小麦によるものが有名ですがエビなどの甲殻類でも起きますし近年は果物でも報告が増えております。果物では桃やイチゴ、ブドウなどが原因となりますがこれらに含まれているGRPという消化酵素に強い(消化耐性を持つ)成分が関係しているのではないかと言われております。このGRPはジベレリン制御タンパクの略でヒノキ科の花粉にも多く含まれておりヒノキ科の花粉症による後述の花粉食物アレルギー症候群(PFAS)の原因ともなります。

このω-5グリアジンのように近年では食品の中のアレルギーの成分(アレルギーコンポーネント)に対する特異的IgE抗体を検査することができるようになっております。小麦やクルミなどに対する特異的IgE抗体を測定する方法が従来の方法でしたがこれらの粗抽出アレルゲン(粗抗原)には様々な蛋白質が含まれており、より具体的にアレルギーコンポーネントに対する特異的IgE抗体を測定した方がより正確なアレルギーの診断に繋がります。

寄生虫であるアニサキスに対するアレルギーの場合も今まで食べて大丈夫だった魚を食べてアレルギー症状(アナフィラキシーに至ることもあります)を起こすことがあります。またサバアレルギー、青魚に対するアレルギーがあると思われている方の中に実際にはアニサキスに対するアレルギーであったという方もいらっしゃいます。いわゆる食中毒としての強い腹痛を起こす胃アニサキス症とはまた別の病態で死んだアニサキスに対してもアレルギーの症状は起こります。

交差抗原性、交差反応が関与してくる食物アレルギーはまたさらに複雑になってきます。
医療従事者などに多いのですが天然ゴムであるラテックス製の手袋をしている方がその交差反応で一見全く関係の無さそうなバナナやアボカド、栗を食べるとアレルギー症状を起こすことがあります。ラテックスフルーツ症候群と呼ばれる病態です。これもラテックスの中のHev b 6.02というアレルギーコンポーネントが関与しているといわれております。

また先ほども少し触れましたが花粉症から食物アレルギーになるというものがあります。花粉食物アレルギー症候群(PFAS :pollen food allery syndrome)と呼ばれるもので、これも交差抗原性、交差反応が関わっております。たとえばハンノキの花粉にアレルギーがある方がバラ科の果物を食べた時にアレルギー症状を起こしたりします。多くは口の中がイガイガする、口が腫れるなどの軽症の症状(OAS:口腔アレルギー症候群と呼ばれます)ですが中にはアナフィラキシーに至る方もいらっしゃいます。これはBet v1というアレルギーの成分(アレルギーコンポーネント)が関係しているといわれており、このBet v1は加熱されることで抗原性が消失するといわれております。この花粉食物アレルギー症候群(PFAS)の場合も通常の粗抗原の検査でアレルギーを起こした食品そのものを検査しても偽陰性に出てしまうことが多いです。大豆(豆乳)アレルギーの方でその成分であるGly m 4に対する特異的IgE抗体が陽性の方も花粉食物アレルギー(PFAS)との関連が示唆されます。

その他、経皮感作による食物アレルギーが成人でも問題になることがあります。一時期問題になった「茶のしずく石鹸」で小麦アレルギーが起きたのは社会問題になったことがあります。これはこの石鹸の中に加水分解小麦の成分が添加されており、この石鹸を使って経皮的に小麦に感作されて今まで小麦を食べて大丈夫だった人がアレルギー症状を起こすようになてしまったというものです。これと似ているのですが化粧品などにコチニール色素というのが含まれているのですが、このコチニール色素に経皮的に感作された方が食品中の赤い色素にアレルギーを持つことがあります。赤色の成分を含んだ食品というのは多岐にわたって赤いお菓子、ハム、魚肉ソーセージなどありますが一見共通性がなさそうなこれらの食品を食べた後にアレルギー症状が出るようになります。

またテレビでも紹介されたことがあるのでご存知の方もいらっしゃるかもしれませんがマリンスポーツをする方や海に入ることが多い職種の方で納豆アレルギーが起きる方がいらっしゃいます。納豆のネバネバ成分でPGA(ポリガンマグルタミン酸)というものがあるのですがこれが関係しているといわれます。クラゲもこのPGAという物質を産生する為、クラゲに刺されてこのPGAに感作されてしまうと納豆を食べてもアレルギー症状が出てしまうようになることがあります。

他にも意外なものとして犬などのペットを飼っている方が牛肉アレルギーを経皮的に感作されて発症することがあります。牛肉の中にαGalと呼ばれる構造があるのですが犬が散歩中に付着してくることがあるダニの唾液中にもこのαGalという構造が多く含まれております。犬に付着したダニに人が咬まれると唾液を介して経皮的に牛肉アレルギーを発症してしまうということがあります。この場合、他のαGalを含む食事(例えばカレイの魚卵など)にもアレルギーを持ってしまうこともありますし、一部の医薬品にはこのαGalが構造として含まれているものもあり代表的なものではセツキシマブという分子標的薬はある特定の遺伝子変異をもった悪性腫瘍の治療に使われるのですがダニに咬まれてαGalに感作されてしまうと強いアナフィラキシー症状を呈することがあります。犬を飼っている方の牛肉アレルギーの場合は薬物アレルギーとしての性質を持っている可能性がある点は注意が必要です。

その他、飲酒やストレス、運動、寒冷などでもアレルギーに関与するマスト細胞が活性化し体調によってアレルギーの症状が出たり出なかったりということも起こりえます。
(そのため特異的IgEをいろいろ調べても原因を特定しうるような結果が出ないという方もある一定の割合ではいらっしゃいます)

ここで話は変わりますが近年では日本でも木の実類、特にクルミのアレルギーが増えてきております。もともと欧米ではナッツ類のアレルギーは問題になっておりましたが日本では以前はそれほど問題にはなっておりませんでした。しかし、2014年頃からクルミのアレルギーの患者さんの数は増加傾向にあり特にここ数年はその増加が急激になっております。それを受けて消費者庁の方から2023年3月よりアレルギー表示が義務付けられた品目である特定原材料に「くるみ」が追加されております。クルミのアレルギーの場合は強い即時型のアレルギーを呈する可能性が高いといわれております。実際に私の外来にいらっしゃるクルミのアレルギーの患者さんもアナフィラキシーまで至った方もいらっしゃいます。クルミのアレルギーコンポーネントのJug r 1も保険適応で検査を行うことができます。またクルミの次にカシューナッツでの重症のアレルギーも増えており、いずれこちらもアレルギー表示が義務化される可能性もあるかもしれません。カシューナッツとピスタチオには強い交差抗原性があるためカシューナッツにアレルギーがある方はピスタチオも併せて避ける必要があります(Elizur A. Allergy 2018 Mar;73(3):593-601)。

なお食物アレルギー検査は症状があるものに対して検査するのが原則であり、網羅的に特異的IgE抗体を測定すると食べても全くアレルギー症状がないものでも陽性に出ることがあります。ただし検査結果が陽性なだけで食べても問題ないものに関しては安易に除去をしないことが言われております(食物アレルギーガイドライン2021、食物アレルギー診療の手引き2020)。試験管内と人体では環境が大きく異なるため検査結果上で感作が証明されても実際には問題ないものもあり(偽陽性)、安易な食物除去による栄養の偏りや生活の質(QOL)の低下の方という別の問題が出てきてしまいます。
(View39のようなマルチパネルでアレルギー検査を受ける場合は前もってこのことを理解してから受けるのが望ましいと思います)